研究室紹介

膵臓研究室

研究室概要

当研究室は膵疾患の臨床・基礎研究に特化した全国的にもユニークな研究室として進歩・発展してきました。研究室開設から50年以上の歴史を有しており、現在では全ての膵疾患・胆道疾患の内科的診療を幅広く行っています。胆膵領域の悪性腫瘍である膵癌・膵神経内分泌腫瘍・胆道癌の予後は不良であり、特に膵癌は最難治の癌として広く知られています。我々は膵癌の予後改善を最重要課題として、診療・研究に取り組んでいます。診療面ではEUS、ERCPといった胆膵内視鏡を駆使した膵癌早期診断や胆道ドレナージ、外科手術も念頭に置いた最新の化学療法や緩和ケアまで全人的医療を実践しています。また、膵癌と並ぶ代表的な膵腫瘍である膵神経内分泌腫瘍に関しては全国有数の症例数を誇り、国際共同治験や全国多施設共同研究を主導しています。また、膵癌・膵神経内分泌腫瘍の克服を目標に、分子生物学的手法を用いた研究を進めています。
上記の他にも、膵炎、胆管・胆嚢炎、総胆管結石(内視鏡治療)など多くの良性疾患も診療しており、救急医療から癌薬物療法・緩和ケア、内視鏡診療まで、幅広く対応できる膵・胆道疾患の専門医育成を目指しています。

研究内容

臨床研究
当研究室では膵臓疾患の専門施設として、各膵疾患の診断・治療に関係する臨床試験を積極的に行っています。
(1)慢性膵炎・自己免疫性膵炎の病態に関する研究
早期慢性膵炎は日本から発信された新しい疾患概念で、まだ病態や予後が未解明なところも多いため、その経過や予後に関する追跡をすすめています。また、慢性膵炎による難治性疼痛に対するインターベンション治療の有用性について外科的治療と比較する臨床研究に参加していています。自己免疫性膵炎ではその再発とステロイド治療の有用性についての研究、前向き予後調査に関する臨床研究に参加しています。
(2)膵癌、胆道癌に関する研究
JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)の参加施設であり、膵癌および胆道癌に対する標準治療の確立、新たな治療法の探索を目的として、様々な研究活動(多施設共同臨床試験)を行っています。また、膵癌や胆管癌などの悪性腫瘍による十二指腸狭窄や胆管狭窄に対する内視鏡的治療の有用性について様々な関連から検討を行っています。
(3)膵神経内分泌腫瘍に関する研究
膵神経内分泌腫瘍は、希少疾患ということもあり、以前は標準治療が存在しない状態でした。当研究室ではこれまでに、膵神経内分泌腫瘍に対する新たな治療薬の有効性を検証するための国際臨床試験に積極的に参加し、現在国内でも使用可能となったエベロリムスやスニチニブといった新たな分子標的薬の有効性を示したエビデンスの創生に貢献してきました。また、当研究室は膵神経内分泌腫瘍の臨床をリードする施設として、国内における全国疫学調査やガイドラインの作成などにも関与しています。

基礎研究
        
(1)膵の慢性膵炎、線維化機序の解明に関する研究
慢性膵炎の病理組織は、炎症細胞浸潤と高度な線維化を特徴とします。膵臓の線維化形成に中心的な役割を果たす細胞として、膵星細胞(Pancreatic Stellate Cell : PSC)が知られています。膵臓の傷害時に活性化されるPSCは、サイトカイン、ケモカインや増殖因子の産生、細胞外基質タンパクの産生を活発に行い、膵における炎症の増悪および線維化の進展に関与していると考えられています。当研究室では、活性化と炎症細胞との相互作用に注目し、膵臓の慢性炎症、線維化の進展機序の解明に取り組んでいます。
(2)慢性膵炎、腺房-導管異形成、発癌に関する研究
膵の慢性炎症において腺房細胞の脱分化を繰り返す中で、一部の細胞が脱分化状態を持続する異常がおき、その結果、腺房-導管異形成(acinar to ductal metaplasia:ADM)という特異な形態変化を遂げることが想定されています。ADMは、前癌病変である膵上皮内腫瘍性病変(pancreatic intraepithelial neoplasia: PanIN)を形成する素地となり、PanIN病変を経て膵癌が発生すると考えられています。このように、膵臓の慢性炎症は膵癌の発生、進行を促進することが知られています。われわれの研究室でも、ADMからPanIN、発癌に至る発生メカニズムに注目し、その分子機構の解明に取り組んでいます。 
(3)膵癌、膵神経内分泌腫瘍における網羅的遺伝子発現解析
当研究室では膵癌および膵神経内分泌腫瘍の臨床サンプルを用い、各腫瘍における特異的なバイオマーカーや発癌・浸潤・転移・再発に関与する遺伝子の探索を目的として、次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析を行っています。

診療内容

当研究室では、悪性疾患から良性疾患まで、全ての膵・胆道疾患に対する内科的診断・治療を担当しています。大学病院内や多くの関連病院を通じて様々な膵疾患、胆道疾患の患者さんを紹介頂いており、最新かつ最良の診断・治療を提供できるよう心掛けています。
画像診断については各種画像検査や内視鏡検査を駆使し、膵・胆道病変に対する緻密で確実な診断や、膵・胆道癌の早期発見に努めております。内視鏡検査・治療については、内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)関連治療や、膵腫瘍の診断に欠かせない超音波内視鏡検査(EUS)、超音波内視鏡による穿刺細胞診・組織診(EUS-FNA)を行っています。急性膵炎後の膵周囲液体貯留に対するEUS下(経胃・十二指腸的)ドレナージ、ERCP困難例に対するEUS下胆道ドレナージなど、最新の治療も積極的に施行しています。また、膵臓は内分泌機能として血糖値の調整、外分泌機能として消化吸収に大きく関わる臓器であり、そのため膵疾患では血糖コントロールや栄養状態が悪化する患者さんが少なくありません。我々は、原疾患の治療だけではなく膵内外分泌機能の検査も行うことで、血糖や栄養状態を適切にコントロールし、患者さんのQOLを維持することに努めています。

    
膵癌
難治性癌の代表格である膵癌は日本国内のみならず、世界的にも増加の一途を辿っており、当科にも病院内外から多くの膵癌患者を紹介頂いています。外科、放射線科など各科と密に連携し、膵癌の治療成績向上を最重要課題として、日々の診療に取り組んでいます。
膵癌の診断には、CTやMRI、ERCP、EUS、PETによる画像評価のみならず、病理診断が非常に重要となります。当科ではERCP・EUS-FNAによる細胞診・組織診を積極的に行っており、膵癌の高い正診率を得ています。
治療では全身化学療法(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル、FOLFIRINOX、ゲムシタビン、S-1)を主に担当しており、切除不能症例や術前・術後症例に対する化学療法を多数行っています。局所進行例に対しては、放射線科と連携した局所治療(放射線治療・重粒子線)も行っています。また、血糖や栄養状態の管理、精神状態の評価も行い、QOLの維持、改善を図っています。さらに膵癌特有の問題として、胆管閉塞(黄疸)や消化管狭窄・閉塞に対する適切なマネジメントが求められます。当科ではここでもEUS・ERCPを駆使して、内視鏡的胆道ステント留置や消化管ステント留置による低侵襲治療を行っています。膵癌は単一の治療法で長期生存を得ることが難しく、外科手術や化学療法、放射線療法に加え、これらの支持療法を併用した集学的治療にて病状と予後改善を目指しています。
膵神経内分泌腫瘍
膵神経内分泌腫瘍は稀少疾患ですが、当科では全国各地から数多くの患者さんを紹介頂いており、豊富な診療経験やデータ、最新の情報に基づき診断、治療を行っています。CIやMRI、EUS、FDG-PET検査に加え、2016年より保険適応となったSRS(ソマトスタチン受容体シンチグラフィー)を積極的に用いて精度の高い画像診断に努めると共に、EUS-FNAによる病理診断を積極的に行っています。また、機能性膵内分泌腫瘍であるインスリノーマに対しては当科で開発した48時間絶食グルカゴン負荷試験にて、ガストリノーマに対してはカルチコール負荷試験にて存在診断を行い、選択的動脈内カルシウム負荷試験(ASVS)にて局在診断を行います。また、膵神経内分泌腫瘍を高率に合併する遺伝性疾患であるMEN type 1 の患者さんに対しては、内分泌代謝・糖尿病研究室と連携して診療に当たっています。
切除不能の進行性膵神経内分泌腫瘍に対しては、ソマトスタチンアナログや分子標的薬(エベロリムス、スニチニブ)、ストレプトゾシンにて治療を行っています。膵内分泌癌に対しては、シスプラチンとエトポシドもしくはイリノテカンにて治療を行っています。
急性膵炎
急性膵炎、特に重症急性膵炎は致死率の高い疾患ですが、当科では動注療法や持続濾過透析を含んだ集学的治療を行い、高い救命率を得ています。高次医療機関としてICU、循環器内科、腎臓内科、麻酔科、精神科、外科と緊密に連携を図り、致死率の高い病態に立ち向かっています。また、急性膵炎の合併症としておこる膵周囲液体貯留(仮性嚢胞や被包化壊死:WON)に対し、外科と連携のもと、内視鏡(ERCP, EUS)を用いて、経乳頭的および経消化管的ドレナージを施行し、可能な限り低侵襲性治療に取り組んでいます。
慢性膵炎
慢性膵炎は非可逆性の疾患で、進行とともに膵内外分泌機能低下を来たし栄養障害や免疫低下、膵性糖尿病を呈します。慢性膵炎の診断にはEUSやERCPなどにより、膵の形態学的変化を捉えるとともに膵内外分泌の評価を行い、膵機能に基づいた適切な治療を行っています。現在は高力価消化酵素薬(パンクレリパーゼ)が使用可能となり、膵外分泌機能不全状態における栄養障害の改善、QOLの向上に寄与しています。
また、慢性膵炎の成因として乳頭括約筋機能不全や膵管走行異常に対し、内視鏡的介入を行い、膵管ステント留置や副乳頭切開にて症状や病態の改善を目指しています。
慢性膵炎の新たな病態として、早期慢性膵炎が近年提唱されました。早期慢性膵炎の長期経過など不明な点もまだ多いですが、我々は慢性膵炎に対して早期から適切に診断・介入することで、患者さんのQOL維持・向上を目指しています。

 
自己免疫性膵炎

自己免疫性膵炎は、1995年に日本から世界に発信された新たな疾患概念で、高度な線維化、リンパ球やIgG4陽性形質細胞浸潤、閉塞性静脈炎などの特徴を有するlymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP)の病理組織像を呈します。一方、欧米では好中球上皮病変(granulocytic epithelial lesion:GEL)を特徴とするidiopathic duct-centric chronic pancreatitis(IDCP)の形態をとる病型も報告されています。LPSPを1型(type1 AIP)、IDCPを2 型(type2 AIP)とした亜分類を包括した新しい概念と国際コンセンサス診断基準(International Consensus Diagnostic Criteria:ICDC)が提唱され、2011年に診断基準が改定されました。
自己免疫性膵炎では、膵病変だけでなく膵外病変にもステロイドが著効する一方で、40%に再燃を認め、維持療法が重要です。また、IgG4陽性形質細胞浸潤が硬化性胆管炎,後腹膜および縦隔の線維症,肺,肝,乳腺の炎症性偽腫瘍,キュットナー腫瘍(Küttner tumor),間質性腎炎,下垂体炎およびミクリッツ病(Mikulicz’s disease)などでも認められることから全身のIgG4関連疾患(IgG4-related disease)として各領域の専門家と連携を取りながら、病態解明に取り組んでいます。

胆道疾患
胆道疾患に対しては、EUS, ERCP, IDUSや膵・胆道鏡(Spyglass®)を用いて、病変の広がり(水平方向、垂直方向)の評価、病変部の観察、生検を行い、胆道癌や総胆管結石などの診断を行っています。
胆道疾患の治療として、総胆管結石に対するERCP下の切石や良性・悪性胆管狭窄に対するERCP下の胆管ステント留置(チューブステント、メタリックステント、マルチステンティング)を行っています。また、胆嚢病変に対しても、内視鏡的経鼻胆嚢ドレナージ(ENGBD)や経皮的胆嚢ドレナージを行い、良性及び悪性胆嚢病変の精査や治療を行っています。さらに最近ではERCP困難症例に対するEUS下胆道ドレナージが施行可能となっており、様々な方法を用いて胆道疾患へアプローチしています。

 
胆道癌:欧米諸国に少ないこともあり、治療薬開発が十分進んでいない悪性腫瘍ですが、高齢化社会に伴い本邦でも明らかに増加しています。胆道癌の中には、十二指腸乳頭部癌、肝外胆管癌(遠位胆管癌)、胆嚢癌、肝門部領域胆管癌、肝内胆管癌など複数の部位から発生した癌が含まれており、適切な診断と病状に応じた治療方針決定が重要となります。当科では、外科手術適応の正確な検討、切除不能症例に対する胆道ドレナージ、化学療法などを外科、放射線科と連携して積極的に行っています。
 
総胆管結石:黄疸や胆管炎・膵炎の原因となる胆石症であり、ERCP下の内視鏡治療を第一選択として診療に当たっています。当科の特徴として、巨大結石や術後再建腸管(胃術後など)などの、いわゆる‘困難結石’と呼ばれる総胆管結石を治療する機会が多いことが挙げられます。胆道鏡やバルーン内視鏡の使用、外科との適切な連携を含めて、最善の治療を提供できるよう努めています。
 
胆膵内視鏡
上述のように複雑・多様化した膵・胆道疾患を診断・治療していく上で、胆膵内視鏡が非常に重要な役割を占めるようになっています。胆膵内視鏡はEUS関連手技、ERCP関連手技から構成されますが、現在では診断のみならず治療目的に行われることが多く、手技の内容も年々複雑化しています。患者さん毎に適切な内視鏡診療を行うことはもちろん、実際の手技に伴う合併症にも十分注意を払う必要があります。当研究室では、これらの胆膵内視鏡教育にも力を注いでおり、消化器研究室とも共同して若手胆膵内視鏡医の育成に取り組んでいます。

学生教育・卒後教育

学生教育 
目的
医師としての基本的な姿勢を学び、患者さんと直接向き合い、人間関係を確立し、問診や診察を正確に行えることを目標にします。また、胆道・膵臓疾患やその検査法について学習し、個々の症例において適切な検査方法を選択し、的確な診療プラン(診断・治療・患者教育)を立案できるようになること、基礎研究の面白さを実感し、基本的手技を理解し、実践できるようになることを目指します。
病棟実習
実習中は当科に入院中の患者さん1名を担当します。
実際に医療面接と診察をしてもらい各検査を見学して頂きます。その結果について病棟主治医とディスカッションしながら症例を正確に診断し、適切な治療方針を計画していきます。週1回の病棟カンファレンスでは担当症例について発表し、症例提示の方法について学びます。また、看護師や薬剤師などコメディカルスタッフの仕事についても理解を深めていきます。
外来実習
実際の外来診療を見学します。基本的な内科一般の診察方法に加え、胆道・膵臓疾患における特徴的な身体所見の取り方を学習し、実際に経験してもらいます。また、外来主治医から実際の検査値や画像について説明を受け、疾患についての理解を深めていきます。患者に対する生活指導や、精神的ケアの方法についても学びます。
検査見学
胆道・膵臓疾患を正確に診断するために様々な検査をおこなっており、膵臓の内・外分泌を評価するための各種負荷試験や、経腹超音波検査、内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査や肝腫瘍生検、超音波内視鏡検査などを実際見学してもらいます。各種検査の方法や、その所見、合併症などについて学びます。
エコー実習
経腹超音波検査は非侵襲的な検査にもかかわらず、腹腔内の各臓器をリアルタイムに高解像度で観察できる優れた画像検査です。胆道・膵臓疾患においては必須の画像検査の一つです。実習中には学生または研究室スタッフを被験者として実際に経腹超音波検査を施行してもらいます。
基礎配置
当研究室では急性膵炎や慢性膵炎、膵癌、膵神経内分泌腫瘍などの病態に関わる基礎的研究をおこなっています。基礎配置では実験動物や培養細胞を材料に、リアルタイムPCR法やウェスタンブロット法、分子生物学的手法などを用いて実験を行います。その中で、実際に手を動かしながら、基本的な実験手法の原理から先端的な実験手法までを学んでいきます。病態を細胞生物学的、分子生物学的な視点から解明し、それにもとづいて新規治療法を提案・開発することの難しさと面白さを少しでも感じてもらえればと思います。


卒後教育 
初期研修
ローテ―ト(2-3か月間)では、入院を要する膵疾患の患者さんを主治医とともに担当します。疾患としては膵悪性腫瘍(通常型膵癌、神経内分泌腫瘍)および急性膵炎・慢性膵炎急性増悪・自己免疫性膵炎・胆道疾患などです。実際に患者さんを担当し、具体的な診療方針について主治医と1対1で相談し、できるだけ研修医の先生に実際の診療を体験してもらうよう心掛けています。こうして膵臓の診療を専門とした部門ならではの膵疾患の検査の進め方、治療の選択を自主的に学習することを目標としています。また、週に一度カンファレンスを行い、個々の症例の診療の疑問点に対して研究室全員で意見を出し合い解決することでさらに疾患への理解を深める場としています。なお、悪性疾患を診療する機会の多い当科では研究室一同、前向きに最新治療をしながらも、病状初期より患者さんや家族の苦痛の緩和を第一に考えるという積極的・緩和的医療の両立を心がけており、それを研修医のみなさんにも実体験してもらうことを目指しています。
3年目(入局)以降
基本的には大学病院または関連病院で外来・病棟診療・内視鏡をはじめとした検査・治療に携わってもらいます。当研究室は中規模以上の中核病院で、膵を中心とした消化器病診療で活躍する多数の医師を輩出しています。先輩医師の指導のもとで膵臓のスペシャリストに必須な診療知識や技量を学びます。その中で、専門医資格の取得もできるようプログラムしています。女性医師も活躍しています。また、基礎研究や留学など個人の希望に沿って柔軟に対応し、膵臓病学のさまざまな分野で活躍する医師を育成しています。
当研究室に興味をお持ちの研修医・医師からのお問い合わせ・見学を歓迎致します。
一緒に膵のエキスパートを目指しましょう。

              

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