炎症性腸疾患における腸管炎症の病態を免疫制御・腸内環境・粘膜防御機構の観点から研究を行っています。患者白血球や生検組織などの臨床サンプルを用いた研究では、炎症性腸疾患の病態解明に加え、診断や治療の予測因子など臨床応用を目指した研究を行っています。これまでに様々な炎症性物質の増え方から病気を診断するような方法の開発や、病気の重症度を評価する方法などを報告しています。
食道胃逆流症 (Gastro esophageal reflux disease; GERD) は、胃の内容物が食道に逆流することで胸焼けなどの不快な症状を引き起こす疾患です。最近では、GERDの治療薬である、胃酸の分泌を抑制するプロトンポンプインビター (Proton pomp inhibitor; PPI) による治療を行っても症状が消失しない抵抗性が増加しており社会問題となっています。
食道運動異常症 (Esophageal motility disorders; EMDs) とは何らかの原因で食道の運動に異常をきたした状態です。患者様は嚥下時のつかえ感、胸痛など様々な症状を訴えます。
近年、食道生理機能の検査の著しい進歩により、これらの食道の機能性疾患における詳細な病態評価が可能になってきました。当科では食道内多チャンネルインピーダンス・pH測定検査(MII-pH)及び高解像度食道内圧検査(HRM)を用いて食道の生理機能に関する食道運動異常に関しての臨床研究を行っています。
アカラシアを代表とする食道運動異常症及び胃食道逆流症の原因は、不明な部分も多く、病態に即した根本的な治療法はなく、何らかの対症療法が行われております。その中で、重要な病態の1つとして、食道運動機能が関わっています。ヒト食道の近位側1/3は横紋筋からできており、安静時圧を有する上部食道括約筋を構成します。 一方、食道遠位側2/3は一般の消化管筋層と同様に平滑筋から構成されます。重要なことは、食道遠位側2/3の平滑筋部位はその収縮性から、一般的な消化管平滑筋の特徴であるフェージックな食道体部と安静時圧を有する特殊化したトーニックな食道下部 (下部食道括約筋)に分類されます。アカラシアを代表とする食道運動異常症は、近位部の1/3 (横紋筋部位)には異常を認めず, 食道遠位部の2/3 (平滑筋部位)における運動機能障害であり, 食道運動異常症の病態解明と治療法の開発には、2種類の食道体部平滑筋と下部食道括約筋の収縮性の相違や収縮機序の違いを解明しておくことが重要であり、我々はブタを用いた基礎的検討で、食道体部平滑筋及び下部食道括約筋の収縮の機序の解明を行っております。ごく最近では、非酸逆流に関連する十二指腸液に含まれるトリプシンが食道平滑筋に引きおこす収縮弛緩反応の機序を解明しました。トリプシンは、食道体部縦走筋にはなんら反応を示しませんでしたが、食道体部輪走筋及び下部食道括約筋においては、収縮弛緩反応を引き起こしました。すなわち、食道体部輪走筋において、トリプシンはTRPV1→サブスタンスP→NK1/2→カハールの介在細胞を介した平滑筋の収縮弛緩反応を引き起こすことを解明しました。
NBI(Narrow Band Imaging: 狭帯域光観察)拡大観察による診断:われわれは、通常内視鏡観察および色素内視鏡観察に加えNBI拡大観察を積極的に行っています。NBIとは、粘膜表層の毛細血管観察用に青色の狭帯域光(390~445nm)と深部の太い血管観察と粘膜表層の毛細血管とのコントラストを強調するために緑色の狭帯域光(530~550nm)の2つ波長の光を粘膜にあてることで粘膜の微細な表面構造や毛細血管をくっきりと写し出す技術です。粘膜面の微細構造や毛細血管の詳細な観察により、腫瘍性病変の発見や範囲診断のみならず、その組織型や深達度などの推定も可能となっています。
ESD(Endoscopic Submucosal Dissection: 内視鏡的粘膜下層剥離術)による治療:内視鏡の性能向上や上記のような診断技術の進歩により、多くの消化管腫瘍が早期の段階で発見されるようになり、内視鏡治療の必要性が高まっています。早期悪性腫瘍に対する内視鏡治療として、以前はEMR(Endoscopic Mucosal Resection: 内視鏡的粘膜切除術)が行われていましたが、切除可能な形態や大きさに制限があることや分割切除となった際の再発率の高さなどから新しい治療法が模索されていました。新しい内視鏡治療法であるESDは、周囲切開を行った後に腫瘍を辺縁から剥離していくため、粘膜層から粘膜下層浅層にとどまる早期悪性腫瘍であれば理論上は大きさに制限なく一括切除することが可能となりました。また従来のEMRでは切除が困難であった病変でもESDにより切除が可能となっています。ESDはEMRよりも根治性に優れており、また外科的手術よりも侵襲が少なく回復も早いことから、われわれはESDによる内視鏡治療を積極的に行っています。
近年胃食道逆流症 (Gastroesophageal reflux disease; GERD)の治療薬である、胃酸の分泌を抑制するプロトンポンプインビター (Proton pump inhibitor; PPI)による治療を行うものの症状が消失しないPPI抵抗性GERDが増加しており社会問題となっています。当科で行なっている食道内多チャンネルインピーダンス・pH測定検査(MII-pH)では、①胃酸の分泌状態、②胃内容物の食道への逆流状況、③逆流している内容物の性状を解析することで症状が起きている原因・病態を詳細に把握することができます。そのため、各々のPPI抵抗性GERD症状に最も適した治療を選択し実施しています。
また、アカラシアを代表とする食道運動異常症 (Esophageal motility disorders; EMDs)は致死的疾患ではないものの摂食時のつかえ感、胸痛などの症状を引き起こし、著しくADLを低下させる疾患として知られています。EMDsは一部の疾患に対してのみ後述するPOEMが治療法として確立されているものの、有効な内科的治療が存在しないことが現状の課題でした。当科では、下部食道括約筋の弛緩不全を有しアカラシアの亜型と考えられているEsophagogastric junction outflow obstruction (EGJOO)という疾患に対してアコチアミドが有効であることを報告しました。当科では内視鏡治療である経口内視鏡的筋層切開術 (per-oral endoscopic myotomy; POEM) を始め、EMDsに対する治療を開発、発展、確立していくこと目標に日々の診療を行っています。
食道はのどと胃をつなぐ、筋肉に富む管状の臓器で、口から飲み込んだ食物を胃のほうに送る働き(蠕動運動)と、胃からの逆流を防ぐ働きがあります。食物を飲み込む時、蠕動運動と逆流を防ぐ筋肉の緩む動きが、協調して行われる必要がありますが、アカラシアという病気では、これらがうまく機能しなくなります。食道アカラシア患者さんは10万人に1-2人と比較的まれな疾患と言われていますが、患者さんは食物のつかえやのどへの逆流、胸の痛みなどの症状で、非常に苦しい思いをされ、食事が取れず体重がかなり減ってしまうこともしばしばです。これまでの医学研究により、胃に近い食道の筋肉がゆるまないことが、症状を引き起こす一番の原因であることが明らかとなっています。原因となっている筋肉を緩めるため、お薬の治療、風船で広げる治療、重度の場合は、外科的手術が行われていましたが、2008年に内視鏡を使った治療法が開発されました。それがPOEMという治療法です。POEMは2008年に昭和大学江東豊洲病院の井上晴洋医師が開発した手技で、当科の畑医師が1年半の期間、井上医師の下でPOEMを学び、80例に及ぶ治療経験(助手を含めると150件以上)を経て2017年2月から治療を開始しております。POEMは、手術室で全身麻酔下に行います。口から内視鏡を入れ、食道の内側を覆う粘膜を小さく切開して(図2A)食道を取り囲む筋肉を露出させます。その小さな傷から、内視鏡を、粘膜と筋肉の間に潜り込ませて(図2B)、原因と推測される筋肉を切っていきます(図2C)。最後に粘膜の小さな傷を閉じて終了です。食道アカラシアの治療では、薬剤や風船による治療では効果に限界があり、症状が改善しない患者さんには外科的治療が行われてきました。しかし、この治療法の確立によって、おなかにメスを入れることなく、外科手術と同等の治療効果が期待でき、通常の内視鏡(胃カメラ)を用い、食道の粘膜の下を切り進むため、体への負担はより小さく、また術前の検査結果に基づき筋肉を切開する長さをより細かく調整することが可能です。
当科では上記のような症状のある患者さんに、内視鏡検査、バリウム検査、CT検査に加えて、上記の高解像度食道内圧検査を行います。食道内圧検査はアカラシアの確定診断および原因となっている筋肉の範囲確認にもっとも重要な検査になります。このような検査をもとに、本当にPOEMの治療が必要かどうか、POEMを行うとすれば、どこからどこまでの筋肉を切って緩めるのが最善かを十分に検討したのちに治療にあたっております。
当科は、超音波内視鏡(Endoscopic ultrasonography : EUS)検査数において全国屈指の high volume center です。消化器内視鏡医として求められる上部・下部・小腸の内視鏡診断や治療(ESD、EMR)手技に加えて、消化管領域と肝胆膵領域の垣根が低く、合同で検査・診断・治療を進めているため、EUSを通して消化管領域と肝胆膵領域を横断的に診断・治療の経験を積めるのが特徴です。
≪超音波内視鏡検査≫
胃カメラに超音波を出す装置がついたEUS専用機や胃カメラの鉗子口から簡易型EUS用いて、音波が跳ね返ってくる現象(エコー)を画像化することで、診断します。消化管(食道,胃,十二指腸,大腸など)に発生した癌の深達度(表面からどこまで深く進んでいるか),(リンパ節など)転移診断,治療効果判定,粘膜下腫瘍の診断、膵胆道(膵臓,胆嚢,胆管)領域では腫瘍性病変の鑑別、進展度診断(周囲臓器の浸潤)、リンパ節転移の診断、良性疾患(慢性膵炎,結石症,胆嚢ポリープなど)の診断に用いられます。
≪EUS-FNA≫
超音波内視鏡下穿刺吸引法(Endoscopic ultrasound – guided fine needle aspiration :EUS-FNA)は,消化管に近接した病変をEUSガイドに、内視鏡先端から専用の穿刺針を用いて組織を採取する方法です。画像診断では良性・悪性の鑑別が困難な事も多く、病理診断により確定診断が得られる点で大変有用です。適応は消化管周囲(縦隔、腹腔内、後腹膜)の腫瘤性病変,消化管粘膜下腫瘍,リンパ節腫大,他の検査では画像化できない微量腹水などです。正診率は70-90%と高率でありながら、偶発症は2%以下と有効性や安全性が高いことから、2010年より保険適応された手技です。
≪超音波内視鏡下嚢胞ドレナージ術≫
膵炎などの後遺症として発症する膵周囲液体貯留に細菌感染をきたし膿瘍(膿)を形成することがあります。膿は胃のすぐ後ろにできることがほとんどですので、超音波内視鏡で胃より膿を確認し、針を刺して膿を吸引し、穴を風船(バルーン)で拡張します。その後プラスチックのチューブを挿入して膿を胃内あるいは鼻から通したチューブで吸引(ドレナージ)します(図)。超音波内視鏡(EUS)を用いた嚢胞ドレナージ術(EUS-guided cystogastrostomy)と呼びます。開腹手術よりも患者さんへの負担が少なく、他の治療法と比較して安全性や治療効果が高いことから、2012年より保険適応されています。
<粘膜下腫瘍>
消化管粘膜下腫瘍は、胃カメラを用いた通常の方法での組織採取は困難なため、超音波内視鏡下穿刺吸引生検(Endoscopic ultrasound – guided fine needle aspiration :EUS-FNA)あるいは粘膜切開生検法※を用いて診断しております。
九州大学医学部 第3学年の「消化管・腹膜」の講義において、「消化管学概説(4)」「胃・十二指腸潰瘍」「胃・十二指腸疾患の機能異常、損傷と炎症」を担当、第4学年で「内科症候学-吐血、下血、便秘、下痢」の講義しています。また、医学部第4学年の診察手技試験(OSCE)の腹部の試験官を、医学部第4、5学年の臨床実習において、学生の指導を担当しています。
後期レジデント及びsubspecialty研修として、消化器内科、消化器内視鏡、胃腸科専門医の取得を目指したトレーニングを行なっています。当研究室は、これまでに日本消化器病学会専門医(82名)/指導医 (17名)、日本消化器内視鏡学会専門医 (70名)/(41名)、日本消化管学会胃腸科専門医 (22名)/指導医 (22名)を輩出しています。また、キャリアを中断せざるをえなかった女性医師に対しては、大学病院または基幹病院の有する女性医師のための研修プログラムを利用して、専門医の取得できるようにトレーニングを行なっています。