ご挨拶

消化器代謝学講座

准教授 伊原栄吉

「消化器代謝学」とも言うべき新しい研究領域を創成し、
人材育成と研究成果の臨床応用に貢献します。

内科学の魅力は、全身を俯瞰することにより、疾患の成因を解明し、新たな診断・治療戦略を開発することです。過栄養や運動不足により発症する肥満症、糖尿病、NASHなどの生活習慣病は国民の健康に対する大きな脅威になっています。わが国では2016年の糖尿病人口が1,000万人を超え、男性の3人に1人は肥満であると推定されています。特に肥満に合併する糖尿病は多くの生活習慣病や悪性腫瘍のリスクを増加させるため、超高齢化社会のわが国において健康寿命の延伸の鍵と考えられます。最近では、新しい糖尿病治療薬が臨床応用されていますが、肥満あるいは糖尿病の成因・病態に立脚したものではありません。

近年、栄養素の消化・吸収を担う消化管を起点とする多臓器連関が多くの生活習慣病に関連することが示唆されています。消化管は、栄養素を中心とする外界刺激を鋭敏に感知してGLP-1/GIPなどのインクレチンや多くの消化管ホルモンを産生し、腸内細菌叢の多面的機能により全身の栄養代謝の司令塔として重要な役割を果たすことが証明されています。肥満外科手術の糖脂質代謝改善効果からも消化管が全身のエネルギー代謝調節に大きく関与することは明らかです。一方、消化器疾患の診断の要である内視鏡検査機器の開発には目覚ましいものがあり、消化管粘膜表面の細胞レベルまで観察可能な超拡大内視鏡が臨床応用されています。

以上の背景を踏まえて、消化器代謝学講座(Department of Gastroenterology and Metabolism)では、消化管を起点とする多臓器連関による全身のエネルギー代謝機構に関する基礎研究、ゲノム・エピゲノムあるいはメタボロームなどのマルチオミクス解析、最新内視鏡機器あるいは内視鏡生検検体を駆使した臨床研究などにより、消化器病学から代謝学を俯瞰して肥満や糖尿病などの生活習慣病の成因・病態の解明と新しい診断・治療戦略の開発を目指します。九州大学大学院医学研究院・病態制御内科の関連講座として、消化器学と代謝学の境界領域において最先端の研究と診療に積極的に取り組むことにより、「消化器代謝学」とも言うべき新しい研究領域を創成し、若手研究者・医師の育成と基礎研究の成果の速やかな臨床応用を目指します。今後とも消化器代謝学講座を御支援いただきますよう宜しくお願い申し上げます。

研究内容