研究室紹介

内分泌代謝・糖尿病研究室

研究室概要

平成30年11月、内分泌代謝研究室、糖尿病研究室が統合し、内分泌代謝・糖尿病研究室として新たなスタートを切りました。内分泌代謝研究室の歴史は昭和45年、第4代教授 井林博先生時代に遡ります。その後、第5代教授 名和田新先生、第6代教授 髙栁涼一先生と引き継がれ、下垂体、副腎を中心にした基礎研究から臨床研究に渡る幅広い業績を重ね、日本を代表する内分泌代謝研究室として発展、さらには糖尿病、肥満を中心とした生活習慣病の基礎研究ならびに臨床研究を展開していました。一方、糖尿病研究室は約30年前に開設、糖尿病専門医の育成、糖尿病合併症研究に取り組んでいました。
第7代教授 小川佳宏先生の就任後、「エピゲノム」、「炎症」、「細胞内代謝」など専門分野に捉われない学際的な研究の展開、「内分泌疾患、糖尿病いずれの専門診療にも対応できる」良質な専門医の育成を目的に、両研究室が一体となりました。
内分泌代謝・糖尿病研究室では、細胞レベルから個体レベルでの病態解析を基本に研究を推進し、常にその臨床応用を念頭におきつつ、最先端の学術研究を推進しています。生活習慣病は遺伝因子を背景に環境因子が加わることで知らぬ間に進行し、代謝恒常性維持機構の破綻により発症します。そのため、発症前に診断・予測、治療介入を行い、発症の遅延・防止を図るためには、その代謝恒常性維持機構のメカニズムを解明することが不可欠です。
本研究室では、遺伝子改変モデルマウスを用いた病態解析を通じて、新規治療標的、バイオマーカーの同定を目指した研究を展開しています。細胞レベルから個体レベルまでの病態解析を基本に研究を推進し、常にその臨床応用を念頭におきつつ、最先端の学術研究を推進しています。
また、稀少疾患、難治性疾患が多く良質な専門診療を提供できる医師が全国的に少ない内分泌疾患の診療、研究に持続的に取り組むことは、当研究室の重要なミッションです。全国各地から当科に集まってくる多様な内分泌疾患の豊富な診療経験と、臨床から得られる検体を最新の手法を駆使して解析することで日本の内分泌学を牽引すべく活動しています。
国内外、各地域、施設で、内分泌代謝・糖尿病分野の診療、研究を牽引する多くの人材を輩出してきた当研究室は、我が国を代表する医療機関、研究施設として位置づけられています。

研究内容

副腎疾患レジストリを用いた研究
第三内科は数多くの副腎疾患患者の診療に携わっています。
近年、副腎疾患のような希少疾患に関しては、そのレジストリ
を作成し診断、治療、予後の評価を行い、疾患の克服へ向かうことが期待されています。私達の研究室では豊富な臨床情報・血液・組織検体に基づく(Q-AND-A study)、副腎疾患に関する副腎疾患レジストリを独自に構築し新たな知見を日々世界に向けて報告しています。
特に、メタボローム解析を用いたステロイド一斉分析による臨床診断法の構築や、次世代シークエンサーを用いた副腎関連遺伝子パネルに基づく診断やトランスクリプトーム解析による腫瘍形質の評価、一細胞解析や空間的トランスクリプトーム解析、イメージング質量分析法など、最新の解析手法を用いて得られた知見と豊富な診療情報を、機械学習などの手法も用いながら俯瞰的に統合することにより、副腎疾患の病態を再定義、診断を再構築することを目標に研究を進めています。さらに社会貢献として、全国規模の副腎疾患レジストリ構築にも参画し、最新の副腎疾患ガイドライン作成にも携わっています。以上のように私達は診療で得られる情報・検体を用いて、疾患の本質に迫りつつ、診療にも有用な
エビデンス構築を目指した研究を行っています。
 
ミトコンドリアダイナミクス研究
ミトコンドリアは細胞が効率的にエネルギー合成を行うERの連携を制御し、
肝臓の恒常性維持を担っていることを明らかにしました。
また、ミトコンドリアダイナミクスの破綻が、パーキンソ病やアルツハイマー病といった神経変性疾患のみならず、悪性腫瘍や糖尿病などの代謝性疾患と関連していることもわかってきています。これらの多様な疾患の背景に存在する代謝・炎症においてミトコンドリアダイナミクスが担う役割を解明することを目的とした研究を行っています。ために必須の細胞内小器官です。
その他にもミトコンドリアは細胞内シグナル伝達やアポトーシスをはじめ様々な生理現象に関与していることが明らかとなっています。ミトコンドリアは静的な細胞内小器官ではなく、細胞内外のさまざまな環境変化に応じてダイナミックに分裂や融合を繰り返して生体の恒常性維持に重要な役割を果たしています。また代謝ストレスによりダメージを受けたミトコンドリアが分裂により本体から切り離されてマイトファジーという品質管理機構により適切に処理されることにより、代謝ストレスによる細胞のダメージを蓄積させない精緻な仕組みを持っています。
我々はこれまでに肝臓のミトコンドリアダイナミクスがミトコンドリアとERの連携を制御し、肝臓の恒常性維持を担っていることを明らかにしました。また、ミトコンドリアダイナミクスの破綻が、パーキンソ病やアルツハイマー病といった神経変性疾患のみならず、悪性腫瘍や糖尿病などの代謝性疾患と関連していることもわかってきています。これらの多様な疾患の背景に存在する代謝・炎症においてミトコンドリアダイナミクスが担う役割を解明することを目的とした研究を行っています。

 
肥満症、2型糖尿病をはじめとした生活習慣病の発症基盤における慢性炎症の関与
肥満症、2型糖尿病、高血圧症、脂質異常症は、遺伝的要因に生活習慣などの環境的要因が重なることで発症します。これらの疾患に共通した発症基盤として慢性炎症が注目されています。我々は、生活習慣病の病態の発症・進展のメカニズムを慢性炎症の観点から実質細胞と免疫細胞の組織局所での相互作用に焦点を当てて研究をすすめています。また、糖尿病の治療薬として現在使用されているGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬などの糖代謝改善作用以外の全身作用に着目して、超高齢化社会において重要な課題であるサルコペニア(筋肉減少)の発症メカニズムの解明についても取り組んでいます。これらの研究を通して、組織局所での細胞間相互作用から、全身の様々な臓器の臓器連関を介した疾病がいかに引き起こされるのかを分子レベルで研究し、「先制医療」としての生活習慣病対策について基礎ならびに臨床的観点から研究を行っています。
肥満症、2型糖尿病をはじめとした生活習慣病の発症基盤におけるエピゲノムの関与
過去の一定時期に曝された環境により生じた代謝機能の変化が、長期にわたり持続し、肥満や2型糖尿病の発症やその合併症に影響することが“メタボリックメモリー”として着目され、環境要因によるエピゲノム制御が関与していることが示唆されています。我々は母体の胎内環境要因が出生児の生活習慣病の易罹患性に影響を与えるという概念(Developmental Origins of Health and Disease;DOHaD)に着目し、マウスモデルを用いて代謝臓器として重要な肝臓の出生前後における機能成熟にはエピゲノム制御の一つであるDNAメチル化が重要であり、一部の遺伝子においては乳仔期に環境要因により生じたDNAメチル化の変化が成獣期に至るまで維持・記憶され、「エピゲノム記憶遺伝子」として生活習慣病の病態に関与することを報告してきました。これらの知見はDNAメチル化状態を成人後の疾患の予知マーカーや治療標的として利用できることを示唆しており、「先制医療」への臨床応用を目的とし研究を行っています。
             

 

診療内容

視床下部・下垂体疾患、副腎疾患、甲状腺疾患、副甲状腺疾患、性腺疾患等の内分泌疾患、ならびに糖尿病、肥満症、脂質異常症、骨粗鬆症等の生活習慣病を対象とし、代謝性疾患全体をカバーし専門的診療を行っています。内臓肥満を基盤とするメタボリックシンドロームを中心とした生活習慣病の予防・治療を実践し、患者さんの一生に関わる医療を提供しています。
症例数・治療・成績
この1年間の内分泌代謝診療患者の入院患者数は、視床下部・下垂体疾患59人、甲状腺疾患17人、副甲状腺・骨代謝疾患28人、副腎疾患123人、性腺疾患5人、肥満症35人、糖尿病140人です。また現在の1週間の外来患者数は400~500人です。
視床下部・下垂体疾患
クッシング病、先端巨大症、プロラクチン産生腫瘍、非機能性下垂体腫瘍、下垂体機能低下症、尿崩症などの診療を行っています。下垂体腫瘍に関しては、脳外科・放射線科と連携の上、手術やγ-ナイフ療法による加療を行い、術後内科治療を組み合わせることで成果をあげています。内科治療としては、例えば、先端巨大症の手術不能例や術後残存腫瘍例に対するソマトスタチン作動薬、成人GH欠損症に対する在宅GH補充療法といった治療が飛躍的に向上しています。2019年4月より、脳外科と内分泌代謝・糖尿病内科合同で下垂体外来を開始しており、より密な連携を行い、適切な治療を選択することが可能となっています。

副腎疾患
クッシング症候群、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫などの副腎腫瘍の機能、局在診断を放射線科との連携により行っています。外科、泌尿器科との連携の上、腫瘍摘出を行い、必要に応じて術後内科治療を行っています。クッシング症候群は満月様顔貌、中心性肥満などのクッシング徴候をもち、糖尿病、高血圧などが見られ重篤な心血管合併症を呈する重篤な疾患ですが、クッシング徴候を欠くサブクリニカルクッシング症候群といった新たな疾患概念が提唱されています。したがって、糖尿病や高血圧として加療されている患者さんのなかにはこの疾患が隠れている可能性があります。原発性アルドステロン症では通常のCT検査では副腎腫瘍が見つからない症例もあり、コントロールが困難な高血圧患者さんでは内分泌学的検査による鑑別が必要です。また、検診を含めた画像検査により、偶然に副腎腫瘍が見つかることも増えており、機能性副腎腫瘍の鑑別を行っています。
甲状腺疾患
バセドウ病、慢性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎など各種甲状腺疾患の診断・治療にあたっています。甲状腺腫瘍の穿刺吸引細胞診を毎週火曜日施行し、正確な診断から適切な治療方針の決定を行っています。バセドウ病眼症に対しては、眼窩MRI所見、眼科診察所見から治療適応を判断し、的確なステロイド・放射線治療を行っています。
副甲状腺、カルシウムおよびリン代謝疾患
副甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能低下症、悪性腫瘍による高Ca 血症、多発性内分泌腺腫症(MEN)、低リン血症性骨軟化症等の診断治療にあたっています。
性腺疾患
原発性、続発性性腺機能不全の診断、治療にあたっています。男性のインポテンツ、女性の多毛症なども内分泌疾患の可能性があります。
肥満症
二次性肥満の鑑別診断と同時に、食事・運動療法による減量指導を行っています。わが国ではBMI≧35以上で肥満に関連する合併症を有する「高度肥満症」という概念が設けられており、高度肥満症患者に対する胃スリーブ術も保険適応となっています。当研究室では外科・心療内科の医師や看護師、管理栄養士、理学療法士とともに肥満症治療チームを結成して肥満症患者さんの治療方針を話し合っています。


 
骨粗鬆症
骨密度測定、脊椎圧迫骨折の評価、骨代謝マーカーの測定等による骨粗鬆症の診断、患者さんに適した治療法の選択、続発性骨粗鬆症の鑑別を行い、骨粗鬆症の診断および骨折リスクの評価をしています。骨折の危険性が高い場合は薬物療法を行っています。
糖尿病
糖尿病専門医、看護師、管理栄養士の専門チームによる糖尿病診療を行っています。糖尿病の病態を詳細に検討し、個々の患者さんに最適な治療法を選択しています。
 大学病院が果たすべき使命として糖代謝に関連する特殊な病態の診断・治療に貢献することはもちろんですが、周辺地域の診療所や基幹病院と連携して糖尿病教育入院にも力を入れています。
合併症の評価および治療に積極的に取り組んでおり、糖尿病の多彩な合併症に対応するため、眼科、循環器内科、外科、皮膚科、歯科など他科との綿密な連携をとるとともに、動脈硬化症の早期診断のため脈波伝播速度測定、 頸動脈エコー、血管内皮機能検査などを施行しています。また、特殊検査として糖尿病神経障害の早期診断のための神経伝導速度や最近増加している脂肪肝の定量的検査も行っています。
外来では合併症重症化予防の一環として、糖尿病フットケア外来、糖尿病透析予防指導にもスタッフ一丸となって取り組んでいます。
 

教育

学生教育
・講義
医学部4年の「臨床医学Ⅱ-② 内分泌・代謝・老化概論」の6コマ、「系統医学Ⅲ内分泌・代謝」15コマを担当しています。
 
・研究室配属
対象となる医学部3年生に必要な手技や姿勢・思考を早期より学び、医学研究への興味・関心を持つことを目標として指導教官・在学大学院生が一丸となり指導を行っています。
 
・臨床実習
血糖測定や頚部超音波検査を含め、入院中の患者さんの診察を担当医とともに行います。
卒後教育
当科の研修プログラムを通して、以下の発展的知識と実践力を身につけることを到達目標とする。 

・糖尿病、肥満症診療を取り巻く社会的背景と治療目標の関係について知る。
・糖尿病、肥満症患者の個々の病態に応じた治療法の選択と適切なICが可能になる。
・在宅自己管理について患者教育ができる。
・糖尿病血管合併症の検査計画を立てる。
・糖尿病、肥満症チーム医療のリーダーシップをとれる。
・薬物負荷検査による内分泌機能評価を行うことができる。
・画像検査(CT、MRI、各医学検査、血管造影検査)による疾患診断を行える。
・各種内分泌疾患に対する薬物療法、RI療法、手術療法を適切に選択できる。
・甲状腺エコー、甲状腺穿刺吸引細胞診の手技を習得する。

また、研修を終えて糖尿病専門医、内分泌代謝専門医を目指すものについては、必要な症例を割り当てて考察まで含めたサマリーの指導にあたる。
 

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