学生・研修医の方へ

留学経験者の声

海外留学は知識・技術の向上に加えグローバルな視野を得られます。Joslin Diabetes Center, Section of Vascular Cell Biology, Research Division 横溝 久

2015年4月から米国マサチューセッツ州ボストンにあるハーバード大学医学部附属ジョスリン糖尿病センターで研究留学して4年が経過しています。留学までの経緯やアメリカ生活、研究内容など御報告したいと思います。

留学までの経緯
私は3年間の内科研修後、第3内科にて大学院生活を始めました。糖尿病領域の合併症病態の機序解明、治療薬の開発に興味を持っていたためです。自分で仮説を立てて実験を計画・実行し、検証を繰り返すことの難しさを実感し、一定の結果が出るまでに時間がかかりました。試行錯誤の日々を過ごしていくうちに臨床の面白さとは異なり基礎研究も面白いと感じるようになった私は、日本、アメリカの糖尿病学会等の発表を通して国内外の研究者と接する中で、次の展開として海外留学により色々な経験を積みたいと考えるようになりました。

実際に留学して
私が現在住んでいるボストンは治安が良い都市の一つで、Boston Red SoxやNew England Patriots、ボストン美術館やボストン交響楽団などスポーツや芸術の街であり、学問的にはハーバード大学やマサチューセッツ工科大学と世界をリードする病院・研究機関があります。ボストンへ留学されている日本人も多く、様々な分野・国の方と知り合う機会があります。私はPostdoctoral Research Fellow(ポスドク)としてジョスリン糖尿病センターのGeorge L. King教授のVascular Cell Biology研究室で研究しています。King教授は糖尿病血管合併症に関して世界的に有名で、糖尿病合併症、特に糖尿病に伴う動脈硬化や慢性炎症、網膜症、腎症といった合併症の機序解明と治療薬の開発について第一線で活躍されています。

留学を開始してポスドクに関して強く印象に残ったことはPh.D.が主で、MD+Ph.D.が少数であることです。内科研修してから基礎研究を開始した私と違い、Ph.D.の多くは大学卒業の時点から長年の基礎研究を行っていること、生活にも直にかかることから、最初は彼らの研究や論文作成に対する貪欲さに圧倒されましたが、次第にグローバルな意味での研究姿勢を獲得していくように努めました。写真はKingラボメンバーですが、アメリカ、アジア、ヨーロッパなど様々な国からポスドクが来ています。研究内容だけでなく、様々な国との文化・考え方の違いなど日常会話自体が広い視野を自然に身につける大きな収穫になります。

ラボでの研究
私の研究テーマは「長期生存1型糖尿病患者検体を用いた糖尿病血管合併症保護効果を示す分子の同定と糖尿病網膜症の新規治療法の開発」です。50年以上の罹病期間を有する1型糖尿病患者について軽症群と重症群をプロテオミクス解析で比較することで、糖尿病網膜症保護因子を同定し、治療に応用することが目的です。この標的蛋白について、In Vitro Studyでは細胞レベルで保護メカニズムの解明を、In Vivo Studyではラットやマウスを用いて標的蛋白が実際に糖尿病網膜症を保護するかどうかを検討しています。他の研究として、玄米が高脂肪食マウスの腸内細菌叢の組成変化や褐色脂肪のミトコンドリア機能改善などを介して肥満抑制、耐糖能・インスリン抵抗性の改善、エネルギー代謝の改善を示す可能性について研究しています。

おわりに
糖尿病に関する最新の基礎研究に没頭するだけでなく、家族と過ごす海外生活や様々な国・多様なバックグラウンドを有する方と交流できる貴重な留学生活を送らせて頂いております。帰国後はこちらで得た経験、知識をもとに第3内科の糖尿病領域の発展に貢献したいと思います。内科研修や大学院、海外留学を御支援して頂きました第3内科の先生方に心より感謝申し上げるとともに、この報告が今後留学をお考えの方々の参考になれば幸いです。

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