研究室紹介

総合消化器研究室 肝臓グループ

研究室概要

当研究室は、開設から50年以上が経過している伝統ある研究室です。Apo蛋白の先駆的な研究など多くの業績を残していますが、当初より臨床力のある専門医の育成にも力が注がれており、現在に至るまで連綿と続いています。最近では生体肝移植への道が開かれ、九州・山口周辺の中心的医療機関として、各地からの要請に応えています。

急性肝不全患者のご紹介に関しては診療内容の急性肝不全の項をご参照ください。

研究内容

私たちは、『患者さんへどのようにフィードバックできるのか』ということを常に考えて研究を続けています。肝臓疾患には代謝、炎症、細胞死、再生、発癌と非常に多岐にわたる研究テーマがありますが、現在とくに私たちが注力しているものは、急性肝不全と非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis: NASH)の発症メカニズムの解明と治療法の開発です。
(1) 急性肝不全
正常な肝臓が急速にかつ高度に破壊され、生命を維持することが困難になる病態のことで、以前は劇症肝炎と呼ばれていました。最終的には肝移植が必要となることも少なくない疾患ですが、私たちは内科的治療で患者さんを救命できないか研究を続けています。これまで研究を続けてきた結果、私たちは肝実質の血流障害が急性肝不全を発症する大きな要因の一つであることを見出しています。細胞障害性T細胞をはじめ、どのような炎症性メカニズムの活性化により血流障害や細胞死が生じるのかその詳細な解析を行い、新たな治療法の開発に繋げていきたいと考えています。
       
(2)脂質代謝と慢性炎症・細胞死に注目した非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病態解明
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の1~2割の症例は、NASHと呼ばれる炎症と線維化を伴った進行性の病態に陥っており、最終的には肝硬変や肝がんに至ることがわかってきました。NASHは高度な単純性脂肪肝というわけではなく、インスリン抵抗性や酸化ストレスを背景に、マクロファージを中心とした慢性炎症の持続と肝細胞の変性により発症すると考えられていますが、詳細なメカニズムはまだよく解明されていません。私たちは、肝臓内および全身の脂質代謝・免疫応答の異常、さらに肝細胞の変性によるアポトーシス障害や死細胞の処理機構の破綻がNASH発症に関与している可能性が高いと考えています。私たちは多施設での臨床研究およびマウスを用いた基礎研究によりこれらの仮説を明らかにし、複雑なNASHの病態を解明していきます。

      

診療内容

(1)ウイルス性慢性肝炎・肝硬変
近年ウイルス肝炎、特にC型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法は急速に進歩しています。さまざまなつらい副作用を伴うインターフェロン治療にかわり、直接作用抗ウイルス剤(direct acting antivirals: DAA)は副作用も少なく、8~12週間程度の治療で大きな効果を挙げています。当研究室を中心とした多施設共同研究により、患者さんの状態や感染しているウイルスの薬剤耐性変異の程度により効果に差があるなど多数の新たな知見が見出され、我が国におけるC型慢性肝炎治療をリードしています。私たちは一人ひとりの患者さんの状態を十分に調べて、最も安全で有効性が高い抗ウイルス剤を選択して治療にあたっています。B型慢性肝炎については、核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビル、テノホビル・アラフェナミド)による治療を中心に行っています。肝硬変に対しても、患者さんそれぞれの状態を考慮しながら抗ウイルス療法の適応を検討し、栄養療法や運動療法を行うことで、予後の改善に努めています。私たちは肝性脳症、腹水、胃食道静脈瘤など肝硬変の合併症に対しても、適切な薬物療法と腹腔穿刺排液、内視鏡的治療等をはじめとする処置を行い、症状とリスクの軽減に努めています。
(2)自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎(肝硬変)、原発性硬化性胆管炎
ウイルス性と違って、自己を標的とした免疫異常により肝細胞や胆管細胞が破壊されていく疾患です。血液検査や画像検査、肝組織の病理解析などの検査を行い、適格な診断を行っています。疾患に応じて、ステロイド剤や免疫抑制剤などの薬物療法を用いて治療します。
(3)肝がん
慢性肝炎や肝硬変の患者さんは高率に肝がんを発症します。肝がんに対して最適な治療を選択するためには、腫瘍の状態(ステージ分類)のみならず背景肝疾患の予備能(Child-Pugh分類・肝障害度分類)を的確に分析し、どの程度の侵襲を加えることが可能か正しく評価することが重要です。

(a) ラジオ波焼灼療法(RFA)
超音波検査装置で肝臓や腫瘍を観察しながら、電極針を体表から肝臓内の腫瘍に挿入し、腫瘍を熱凝固させる方法です。焼灼範囲が広いこと、確実性が高いことから、近年多く用いられるようになってきました。少しずつ焼灼範囲を広げていく多段階焼灼法は
当科において開発された安全性の高い治療法で、現在わが国の標準治療法の一つとなっています。この方法を用いることにより、より安全かつ確実に治療が行えるようになっています。

(b)  エタノール注入療法(PEIT)
RFAと同様に、超音波検査で観察しながら肝臓に針を穿刺し、100%エタノールを注入して腫瘍を凝固壊死させる方法です。RFAを実施しにくい、他の臓器(胆嚢、消化管、肺など)や大きな血管の近傍にある腫瘍の場合に行われます。当科ではRFA治療を実施するときにPEITを併用することによってRFAの焼灼範囲を拡大させ、より確実な治療ができるように目指しています。

(c)  肝動脈化学塞栓療法(TACE)
多くの肝がんは血流が豊富な多血性病変ですから、血流を遮断することで腫瘍の壊死を狙うことができます。鼠蹊部の大腿動脈からカテーテルを挿入し、カテーテルを肝臓内の肝がんを栄養する動脈まで進めたところで抗腫瘍剤や血流塞栓物質を投与します。この結果、肝がん組織の血流遮断と抗腫瘍剤の二つの効果を得ることができます。RFAやPEITと組み合わせて治療を行うことで、治療効果を増強させることが可能です。

(d)  持続肝動注化学療法(HAIC)
基本的にTACEは入院中に一回だけ行うものですが、持続肝動注化学療法ではカテーテルを肝臓内に留置することにより、繰り返し何度も治療を行うことができることが特徴です。カテーテルの先端は肝がんの近くの動脈に設置し、その反対側は大腿の皮下に埋め込んだ器具(リザーバー)に接続します。リザーバーに針を刺すことで肝臓内に薬物を投与することができますから、繰り返し治療を行うことが可能です。

(e)   分子標的治療 (ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ)
血流が豊富な肝がんが増大するためには、血流をまかなうために多くの新しい血管(新生血管)ができていく必要があります。ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブは、いずれも、この新生血管の増殖を阻害する作用のある分子標的治療薬です。特有な有害事象(手足症候群など)が生じる可能性は高いのですが、平均生存期間を延長する効果はさまざまな研究で立証されています。

これらの治療方法に限らず、外科や放射線科とも緊密に連携することによって、外科的治療や放射線治療も含めてどのような治療が最適なのか、患者さんごとに丹念に検討を行っています。
(4)急性肝不全(劇症肝炎)
さまざまな原因により急性肝炎が発症し、自然終息せずに重症化すると急性肝不全に至ります。進行すると意識障害をともなって肝機能が廃絶し、肝移植が必要となる場合も少なくありません。当院には肝臓移植外科があることから多数の患者さんが紹介され、当科は現在我が国で発症する急性肝不全症例の約1割の加療を行う、北部九州における急性肝不全治療の中心的医療機関となっています。急性肝不全の患者さんに対して、私たちは病初期より移植外科グループと緊密に連携を図りながら、血漿交換、血液ろ過透析、抗凝固療法、ステロイド投与などさまざまな治療を組み合わせた集学的治療を行っており、良好な救命成績を上げています。

急性肝不全患者の紹介に関しては下のexelファイルに記載、添付の上、メール(kanken@med.kyushu-u.ac.jp)にてお問い合わせください。
内容確認後にご連絡させて頂きます。

excelファイル
 

教育

学生教育
 九州大学医学部医学科や生命科学科、保健学科の学生さんに対する臨床講義(症候学・診断学)や検査実習(腹部超音波検査)を担当しています。
医学科の学生さんは5年生、6年生の2回にわたって、入院中の患者さんの診察を担当医とともに行います(臨床実習)。ディスカッションを十分に行うことで、さまざまな肝疾患についての理解を深めていきます。また、肝臓研究室で実習する学生さんたちは、現在進行中の最先端の研究に関する実験を大学院生とともに行い、サイエンスの面白さについて学んでもらっています。
卒後教育
肝疾患に関する身体所見、臨床症候、検査データを統合して、患者さんがどのような原因で、どのような状況にあるのか論理的判断できる能力が得られることを目指しています。また、自らの技術で患者さんの治療にあたることができるように、腹部超音波検査や上腹部内視鏡検査などの基本技術を習得した上で、さらに、肝がんの肝局所療法(RFA・PEIT)や胃食道静脈瘤の内視鏡的治療なども自信を持って治療できるように指導していきます。
研究室員は、日本内科学会や日本肝臓学会、日本消化器病学会に属しており、それぞれの専門医、指導医の取得が可能です。

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