(1)ウイルス性慢性肝炎・肝硬変
近年ウイルス肝炎、特にC型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法は急速に進歩しています。さまざまなつらい副作用を伴うインターフェロン治療にかわり、直接作用抗ウイルス剤(
direct acting antivirals: DAA)は副作用も少なく、8~12週間程度の治療で大きな効果を挙げています。当研究室を中心とした多施設共同研究により、患者さんの状態や感染しているウイルスの薬剤耐性変異の程度により効果に差があるなど多数の新たな知見が見出され、我が国におけるC型慢性肝炎治療をリードしています。私たちは一人ひとりの患者さんの状態を十分に調べて、最も安全で有効性が高い抗ウイルス剤を選択して治療にあたっています。B型慢性肝炎については、核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビル、テノホビル・アラフェナミド)による治療を中心に行っています。肝硬変に対しても、患者さんそれぞれの状態を考慮しながら抗ウイルス療法の適応を検討し、栄養療法や運動療法を行うことで、予後の改善に努めています。私たちは肝性脳症、腹水、胃食道静脈瘤など肝硬変の合併症に対しても、適切な薬物療法と腹腔穿刺排液、内視鏡的治療等をはじめとする処置を行い、症状とリスクの軽減に努めています。
(2)自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎(肝硬変)、原発性硬化性胆管炎
ウイルス性と違って、自己を標的とした免疫異常により肝細胞や胆管細胞が破壊されていく疾患です。血液検査や画像検査、肝組織の病理解析などの検査を行い、適格な診断を行っています。疾患に応じて、ステロイド剤や免疫抑制剤などの薬物療法を用いて治療します。
(3)肝がん
慢性肝炎や肝硬変の患者さんは高率に肝がんを発症します。肝がんに対して最適な治療を選択するためには、腫瘍の状態(ステージ分類)のみならず背景肝疾患の予備能(Child-Pugh分類・肝障害度分類)を的確に分析し、どの程度の侵襲を加えることが可能か正しく評価することが重要です。
(a) ラジオ波焼灼療法(RFA)
超音波検査装置で肝臓や腫瘍を観察しながら、電極針を体表から肝臓内の腫瘍に挿入し、腫瘍を熱凝固させる方法です。焼灼範囲が広いこと、確実性が高いことから、近年多く用いられるようになってきました。少しずつ焼灼範囲を広げていく多段階焼灼法は
当科において開発された安全性の高い治療法で、現在わが国の標準治療法の一つとなっています。この方法を用いることにより、より安全かつ確実に治療が行えるようになっています。
(b) エタノール注入療法(PEIT)
RFAと同様に、超音波検査で観察しながら肝臓に針を穿刺し、100%エタノールを注入して腫瘍を凝固壊死させる方法です。RFAを実施しにくい、他の臓器(胆嚢、消化管、肺など)や大きな血管の近傍にある腫瘍の場合に行われます。当科ではRFA治療を実施するときにPEITを併用することによってRFAの焼灼範囲を拡大させ、より確実な治療ができるように目指しています。
(c) 肝動脈化学塞栓療法(TACE)
多くの肝がんは血流が豊富な多血性病変ですから、血流を遮断することで腫瘍の壊死を狙うことができます。鼠蹊部の大腿動脈からカテーテルを挿入し、カテーテルを肝臓内の肝がんを栄養する動脈まで進めたところで抗腫瘍剤や血流塞栓物質を投与します。この結果、肝がん組織の血流遮断と抗腫瘍剤の二つの効果を得ることができます。RFAやPEITと組み合わせて治療を行うことで、治療効果を増強させることが可能です。
(d) 持続肝動注化学療法(HAIC)
基本的にTACEは入院中に一回だけ行うものですが、持続肝動注化学療法ではカテーテルを肝臓内に留置することにより、繰り返し何度も治療を行うことができることが特徴です。カテーテルの先端は肝がんの近くの動脈に設置し、その反対側は大腿の皮下に埋め込んだ器具(リザーバー)に接続します。リザーバーに針を刺すことで肝臓内に薬物を投与することができますから、繰り返し治療を行うことが可能です。
(e) 分子標的治療 (ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ)
血流が豊富な肝がんが増大するためには、血流をまかなうために多くの新しい血管(新生血管)ができていく必要があります。ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブは、いずれも、この新生血管の増殖を阻害する作用のある分子標的治療薬です。特有な有害事象(手足症候群など)が生じる可能性は高いのですが、平均生存期間を延長する効果はさまざまな研究で立証されています。
これらの治療方法に限らず、外科や放射線科とも緊密に連携することによって、外科的治療や放射線治療も含めてどのような治療が最適なのか、患者さんごとに丹念に検討を行っています。
(4)急性肝不全(劇症肝炎)
さまざまな原因により急性肝炎が発症し、自然終息せずに重症化すると急性肝不全に至ります。進行すると意識障害をともなって肝機能が廃絶し、肝移植が必要となる場合も少なくありません。当院には肝臓移植外科があることから多数の患者さんが紹介され、当科は現在我が国で発症する急性肝不全症例の約1割の加療を行う、北部九州における急性肝不全治療の中心的医療機関となっています。急性肝不全の患者さんに対して、私たちは病初期より移植外科グループと緊密に連携を図りながら、血漿交換、血液ろ過透析、抗凝固療法、ステロイド投与などさまざまな治療を組み合わせた集学的治療を行っており、良好な救命成績を上げています。
急性肝不全患者の紹介に関しては下のexelファイルに記載、添付の上、メール(kanken@med.kyushu-u.ac.jp)にてお問い合わせください。
内容確認後にご連絡させて頂きます。
excelファイル