研究室紹介

血液研究室

研究室概要

当研究室は昭和30年に発足し50年以上の歴史を有しています。その間、臨床に根ざした研究を行ってきており、鉄芽球性貧血やメイへグリン異常の本邦初の報告を行い、鉄代謝における先駆的研究も行ってきました。現在学内では、臨床への還元を目指し基礎・臨床研究を行っております。最近は血液疾患を対象に一細胞RNA-seq解析を中心とした最新の解析技術を駆使し、病態解明・新規治療法の開発を目指しています。関連病院では下記の通り造血幹細胞移植を含めた診療を行っており、多くの血液専門医を輩出しています。

研究内容

(1)マクロファージの新規殺菌機構の解析
マクロファージは、細菌やウイルスなど外敵の侵入を感知し、その直接的な排除や免疫細胞を刺激することによる間接的な攻撃を指揮する司令塔の役割を担っています。マクロファージに発現がみられるPerforin-2は貪食した細菌の膜に孔をあけ、殺菌に関与することを示しました。Perforin-2の発現調節や細胞内動態の解析を行い、この新しい殺菌機構をより明らかにしようとしています。
                    
(2)同種造血幹細胞移植後の早期合併症発症における血管内皮細胞の役割
難治性の血液疾患の治療として同種造血幹細胞移植が行われていますが、生着症候群、肝中心静脈閉塞症、微小血管閉塞症、超急性移植片対宿主病など生命に関わる重篤な合併症が特に移植後早期にみられます。これらの発症には血管内皮の傷害が関与していると考えられており、当教室では移植前後の血管内皮機能評価により合併症の発症予測や予防につなげて、安全な移植法の確立を目指しています。
                    
(3)血液悪性腫瘍における腫瘍内クローンの多様性に関する研究
血液悪性腫瘍は発症時より進行期まで同じ性質を持つのではなく、性質の異なる腫瘍細胞(クローン)の集団であり、経過中にクローンの選択淘汰が行われていると考えられています。我々は個々のクローンの性質を網羅的に解析することにより、病期の進展や薬剤耐性獲得に重要なクローンを選別し、その責任遺伝子を明らかにしようとしています。
                    
(4)膠原病・造血器腫瘍におけるエクソソーム解析
様々な細胞は30nm〜150nmの大きさのエクソソームと呼ばれる小胞を分泌していることが知られています。エクソソームの中には核酸、蛋白質などが含まれており、受け手となる細胞の中に内容物を放出して影響を及ぼします。血液腫瘍患者や膠原病患者の血液中のエクソソームを単離してその表面抗原や内包するRNA及び蛋白を解析し、診断や予後予測のためのバイオマーカーとしての有用性を検討しています。 
                     
 
(5)造血前駆細胞の分化調節機構の解明
白血球や赤血球などの血液細胞は、骨髄の中ですべての血液細胞の元になる造血幹細胞が分化することによって作り出されています。造血幹細胞から少し分化した造血前駆細胞は、さまざまな刺激をうけて白血球(顆粒球・単球)または赤血球にさらに分化します。これまで当教室ではこの分化調節に関わる因子を明らかにしてきました。最近では脂肪細胞に関連した転写因子PPARγと代謝調節ホルモンFGF21が協調して造血前駆細胞の分化を調節していることを見いだし、さらなる調節機構の解明を行っています。
                     
 

診療内容

急性白血病
急性白血病は状況が刻々と変化する疾患であり、迅速な対応が必要とされます。そのため、血液所見から急性白血病を疑ったら、速やかに骨髄穿刺検査を行い、顕微鏡による形態観察、フローサイトメトリー、染色体分析、遺伝子検査などを駆使して、多面的な視点から診断・予後推定・治療方針決定を行います。特に、近年、FLT3/ITDやNPM1などの予後に関わる遺伝子異常が多数同定されており、既に治療方針決定のための重要な情報源として実臨床でも活用されてきています。
急性白血病自体は、比較的発症頻度の少ない疾患であるため、エビデンスの構築には多くの施設が共同してプロトコール検討を行うことが必要です。我々もJALSG、FBMTGやJSCTなどの多施設共同研究に参加しており、日本での、そして日本発のエビデンス創出を目指しています。

 
悪性リンパ腫
リンパ節腫脹を契機に診断されることが多い悪性リンパ腫ですが、約半数はリンパ節以外の臓器より発症します。特に、当科は、血液疾患以外の診療グループを有しているため、多彩な臓器原発の悪性リンパ腫の診療経験を豊富に有しているのが特徴です。
他の診療グループとの緊密な連携により、内分泌臓器や消化器を原発とした悪性リンパ腫にも柔軟に対応しています。
また、九州地方に多い成人T細胞性白血病/リンパ腫(ATLL)診療にも力を入れています。極めて予後不良な疾患であり、予後改善のための同種造血幹細胞移植の導入や新規免疫療法の開発にも注力しています。

多発性骨髄腫
近年、プロテアソーム阻害薬や免疫調整薬などの新規薬剤の登場により治療成績の著しい向上が得られています。さらにElotuzumabやDaratumumabといった抗体薬、PanobinostatといったHDAC阻害剤なども登場し、超大量化学療法である自家移植も組み合わせながら、長期生存を目指した治療戦略を立案しています。同時に、治療選択肢が増えたことにより、個々の患者さんの疾患状態、年齢、合併症、患者さんの希望などを考慮して、個別に最適な治療法を提案することも可能となってきています。
自己免疫性血液疾患
自己免疫性血小板減少症 (ITP)や重症再生不良性貧血(SAA)、自己免疫性溶血性貧血 (AIHA)、寒冷凝集素症(CAD)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、後天性血友病などが挙げられます。免疫異常を背景とした疾患群であり、それぞれの疾患に合わせて、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌療法、免疫抑制療法(ステロイドホルモン剤、免疫抑制剤、抗胸腺細胞グロブリン製剤など)、摘脾などから適切な治療法を選択します。このような比較的発症頻度の少ない良性疾患に対しても豊富な診療経験を有しているのも当科の特徴と言えます。
血球貪食症候群
EBウイルスなどのウイルス関連血球貪食症候群に加え、リンパ系腫瘍や造血幹細胞移植後などに合併する血球貪食症候群など症例が集積しています。近年、高度な免疫抑制状態を背景に発生するリンパ増殖性疾患や、関節リウマチに対するメトトレキセートや生物学的製剤による薬剤性リンパ増殖性疾患の存在が注目されています。当科では、特にEBウイルス感染を背景に発症するEBウイルス関連血球貪食症候群の成人例を多く経験しています。
造血幹細胞移植
難治性の血液腫瘍や再生不良性貧血患者を積極的に受け入れ、これらの難治性疾患患者に対して造血幹細胞移植を積極的に行っています。
近年、様々な移植法(移植前処置、免疫抑制法など)の開発により、移植ソースの多様化(自家・同種、骨髄・末梢血・臍帯血)、移植ドナーの多様化(血縁・非血縁者間、HLA一致・不一致など)も相まって、多様な移植法が可能となっています。多彩な選択肢の中から、患者の状態や疾患に応じて適切な移植療法を選択することが予後改善に重要です。同時に、移植医療を専門に行う無菌病棟スタッフや、様々な診療科との連携を密に取りながら、極めて高度な集学的治療である造血幹細胞移植の更なる治療成績改善に注力しています。

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