70年以上前に開設された伝統を有する当グループ(研究室)は、Apo蛋白の先駆的な研究など多くの業績を残していますが、開設当初から臨床力のある専門医の育成にも力を注いでいます。近年、生体肝移植に加えて脳死肝移植も全国的に増加傾向にありますが、九州大学病院は全国で3指に入る肝移植施設であり、移植外科と協力して九州・山口地方の移植を要する疾患(特に急性肝不全)の患者さんの診療を支えています。
研究室紹介
Our Laboratories
研究室紹介
Our Laboratories
総合消化器研究室 肝臓グループ
研究内容
私たちは、『患者さんへどのようにフィードバックできるのか』ということを常に考えて研究を続けています。肝臓疾患には代謝、炎症、細胞死、再生、発癌と非常に多岐にわたる研究テーマがありますが、現在とくに私たちが注力しているものは、急性肝不全と代謝機能障害関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis: MASH)の発症メカニズムの解明と治療法の開発です。
(1)急性肝不全
急性肝障害の一部は急性肝不全に陥り、血漿交換や血液濾過透析などの内科集中治療が行われますが、肝移植以外に救命手段がない症例も少なくありません。しかし、急性肝障害から急性肝不全へ進展するメカニズムは不明であり、内科集中治療への反応性を予測することも困難であったため、高次医療機関への搬送基準が定まっていませんでした。当科は我が国で発症する急性肝不全症例の約10%を診療しているhigh volume centerであり、その豊富な臨床経験から一部の症例においては肝臓の微小血流障害による組織低酸素が関与していることを見出し、そのような症例には抗凝固療法や当科独自のステロイド動注療法を施行することで全国平均を上回る良好な治療成績を得ています。近年では、人工知能(AI)技術を用いて、急性肝障害の治療反応性を初診時の臨床情報から予測することに成功しました (PNAS Nexus 2025)。この成果を臨床応用することにより高次医療機関や移植施設へ適切な時期に搬送して早期治療が可能となり、急性肝不全の予後を改善できる未来が期待されています。
(2)脂質代謝と慢性炎症・細胞死に注目した非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病態解明
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の頻度は世界的にも増加傾向にあり、MASLDの約25%の症例は、脂肪性肝炎(MASH)と呼ばれる炎症と線維化を伴った進行性の病態に移行し、最終的には肝硬変や肝がんに至ることがわかっています。MASHはインスリン抵抗性や酸化ストレス、遺伝的要因などを背景に、マクロファージを中心とした慢性炎症の持続と肝細胞の変性により発症すると考えられていますが、その成因は単一ではなく詳細なメカニズムはまだ十分解明されていません。MASH肝では肝細胞の風船様変性や、過剰な脂肪蓄積により細胞死に陥った肝実質細胞をマクロファージが取り囲んで貪食・処理する肝王冠様構造 (hepatic CLS; hCLS)などの特徴的な構造が認められ、MASHにおける炎症や線維化の起点になると考えられます。
私たちはこのMASHの特徴的組織構造に注目し、MASHモデルマウスの肝組織切片からの非実質細胞を分離し、一細胞遺伝子発現解析を行い、hCLSに特徴的な細胞集団を見出しました。今後はhCLSに特徴的な分子機構、周辺細胞との細胞間相互作用について明らかとし、肝線維化を含めたMASHの発症・進展メカニズム解明を目指しています。
私たちはこのMASHの特徴的組織構造に注目し、MASHモデルマウスの肝組織切片からの非実質細胞を分離し、一細胞遺伝子発現解析を行い、hCLSに特徴的な細胞集団を見出しました。今後はhCLSに特徴的な分子機構、周辺細胞との細胞間相互作用について明らかとし、肝線維化を含めたMASHの発症・進展メカニズム解明を目指しています。
診療内容
(1)ウイルス性慢性肝炎・肝硬変
近年ウイルス肝炎、特にC型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法は急速に進歩しています。さまざまなつらい副作用を伴うインターフェロン治療にかわり、直接作用抗ウイルス剤(direct acting antivirals: DAA)は副作用も少なく、8~12週間程度の治療で大きな効果を挙げています。当研究室を中心とした多施設共同研究により、患者さんの状態や感染しているウイルスの薬剤耐性変異の程度により効果に差があるなど多数の新たな知見が見出され、我が国におけるC型慢性肝炎治療をリードしています。私たちは一人ひとりの患者さんの状態を十分に調べて、最も安全で有効性が高い抗ウイルス剤を選択して治療にあたっています。B型慢性肝炎については、核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビル、テノホビル・アラフェナミド)による治療を中心に行っています。肝硬変に対しても、患者さんそれぞれの状態を考慮しながら抗ウイルス療法の適応を検討し、栄養療法や運動療法を行うことで、予後の改善に努めています。私たちは肝性脳症、腹水、胃食道静脈瘤など肝硬変の合併症に対しても、適切な薬物療法と腹腔穿刺排液、内視鏡的治療等をはじめとする処置を行い、症状とリスクの軽減に努めています。
(2)自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎(肝硬変)、原発性硬化性胆管炎
ウイルス性と違って、自己を標的とした免疫異常により肝細胞や胆管細胞が破壊されていく疾患です。血液検査や画像検査、肝組織の病理解析などの検査を行い、適格な診断を行っています。疾患に応じて、ステロイド剤や免疫抑制剤などの薬物療法を用いて治療します。
(3)肝がん
慢性肝炎や肝硬変の患者さんは高率に肝がんを発症します。肝がんに対して最適な治療を選択するためには、腫瘍の状態(ステージ分類)のみならず背景肝疾患の予備能(Child-Pugh分類・ALBI score)を的確に分析し、どの程度の侵襲を加えることが可能か正しく評価することが重要です。
(a)ラジオ波焼灼療法(RFA)
超音波検査装置で肝臓や腫瘍を観察しながら、電極針を体表から肝臓内の腫瘍に挿入し、腫瘍を熱凝固させる方法です。焼灼範囲が広いこと、確実性が高いことから、近年多く用いられるようになってきました。少しずつ焼灼範囲を広げていく多段階焼灼法は当科において開発された安全性の高い治療法で、現在わが国の標準治療法の一つとなっています。この方法を用いることにより、より安全かつ確実に治療が行えるようになっています。
(b)エタノール注入療法(PEIT)
RFAと同様に、超音波検査で観察しながら肝臓に針を穿刺し、100%エタノールを注入して腫瘍を凝固壊死させる方法です。RFAを実施しにくい、他の臓器(胆嚢、消化管、肺など)や大きな血管の近傍にある腫瘍の場合に行われます。当科ではRFA治療を実施するときにPEITを併用することによってRFAの焼灼範囲を拡大させ、より確実な治療ができるように目指しています。
(c)肝動脈化学塞栓療法(TACE)
多くの肝がんは血流が豊富な多血性病変ですから、血流を遮断することで腫瘍の壊死を狙うことができます。鼠蹊部の大腿動脈からカテーテルを挿入し、カテーテルを肝臓内の肝がんを栄養する動脈まで進めたところで抗腫瘍剤や血流塞栓物質を投与します。この結果、肝がん組織の血流遮断と抗腫瘍剤の二つの効果を得ることができます。RFAやPEITと組み合わせて治療を行うことで、治療効果を増強させることが可能です。
(d)持続肝動注化学療法(HAIC)
基本的にTACEは入院中に一回だけ行うものですが、持続肝動注化学療法ではカテーテルを肝臓内に留置することにより、繰り返し何度も治療を行うことができることが特徴です。カテーテルの先端は肝がんの近くの動脈に設置し、その反対側は大腿の皮下に埋め込んだ器具(リザーバー)に接続します。リザーバーに針を刺すことで肝臓内に薬物を投与することができますから、繰り返し治療を行うことが可能です。
(e)化学療法
根治的な治療ができない状態の肝細胞癌に対する化学療法は、従来のソラフェニブ、レンバチニブといった分子標的治療薬に代わり、アテゾリズマブ+ベバシズマブやデュルバルマブ+トレメリムマブといった免疫療法が第一選択となりました。患者さんによって様々な全身状態、肝機能、腫瘍の状態を総合的に判断し、最適な化学療法を選択するとともに、治療中の状況に応じて放射線科や外科と緊密に連携してTACEや手術などを組み合わせて、患者さんの予後改善を目指しています。
(4)急性肝不全(劇症肝炎)
研究の項で説明したように、急性肝不全の患者さんに対して、私たちは病初期より移植外科グループと緊密に連携を図りながら、血漿交換、血液ろ過透析、抗凝固療法、ステロイド投与などさまざまな治療を組み合わせた集学的治療を行っており、良好な救命成績を上げています。
急性肝不全患者の紹介に関しては下のExcelファイルに記載、添付の上、メールにてお問い合わせください。
内容確認後にご連絡させて頂きます。
kanken(at)med.kyushu-u.ac.jp ※ (at) は @ に置き換えて下さい
急性肝不全患者の紹介に関しては下のExcelファイルに記載、添付の上、メールにてお問い合わせください。
内容確認後にご連絡させて頂きます。
kanken(at)med.kyushu-u.ac.jp ※ (at) は @ に置き換えて下さい
教育
学生教育
九州大学医学部医学科や生命科学科、保健学科の学生さんに対する臨床講義(症候学・診断学)や検査実習(腹部超音波検査)を担当しています。
医学科の学生さんは5年生、6年生の2回にわたって、入院中の患者さんの診察を担当医とともに行います(臨床実習)。ディスカッションを十分に行うことで、さまざまな肝疾患についての理解を深めていきます。また、肝臓研究室で実習する学生さんたちは、現在進行中の最先端の研究に関する実験を大学院生とともに行い、サイエンスの面白さについて学んでもらっています。
医学科の学生さんは5年生、6年生の2回にわたって、入院中の患者さんの診察を担当医とともに行います(臨床実習)。ディスカッションを十分に行うことで、さまざまな肝疾患についての理解を深めていきます。また、肝臓研究室で実習する学生さんたちは、現在進行中の最先端の研究に関する実験を大学院生とともに行い、サイエンスの面白さについて学んでもらっています。
卒後教育
肝疾患に関する身体所見、臨床症候、検査データを統合して、患者さんがどのような原因で、どのような状況にあるのか論理的判断できる能力が得られることを目指しています。また、自らの技術で患者さんの治療にあたることができるように、腹部超音波検査や上腹部内視鏡検査などの基本技術を習得した上で、さらに、肝がんの肝局所療法(RFA・PEIT)や胃食道静脈瘤の内視鏡的治療なども自信を持って治療できるように指導していきます。
研究室員は、日本内科学会や日本肝臓学会、日本消化器病学会に属しており、それぞれの専門医、指導医の取得が可能です。
研究室員は、日本内科学会や日本肝臓学会、日本消化器病学会に属しており、それぞれの専門医、指導医の取得が可能です。