九州大学大学院医学研究院 病態制御内学科(第三内科) 九州大学大学院医学研究院 病態制御内学科(第三内科)

Our Laboratories

総合消化器研究室 消化器グループ

九州大学第三内科・総合消化器研究室 消化管グループは、初代小野寺直助教授の時代より1世紀にわたり、消化管疾患の診療と研究を専門に行ってきた伝統あるグループです。私たちは「現場に根ざした臨床力」と「未来につながる研究力」を両立し、消化器病学の進歩に貢献することを目指しています。対象疾患は、消化管腫瘍、炎症性腸疾患、消化管運動機能異常と多岐にわたり、診療・研究・教育のいずれにおいてもハイレベルな環境を提供しています。
また、多くの関連病院と診療のネットワークを構築しており、地域医療との橋渡し役も担っています。当グループには多くの日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本消化管学会の専門医・指導医が在籍しており、若手医師が一歩ずつキャリアを積み重ねながら安心して成長できる環境が整っています。診療・教育の両面で密なサポート体制があり、研修医から大学院生まで、それぞれのレベルに応じた段階的なスキルアップが可能です。
九州大学第三内科の総合内科的な強みを背景に、消化器疾患を深く、かつ広く診る姿勢を大切にしています。チーム医療を重視し、和気あいあいとした雰囲気の中で、熱い議論が飛び交う現場には、医療の面白さと学びの連続があります。消化器の最前線で自分の専門性を深めたい方、幅広い内科診療と研究の力を磨きたい方、ぜひ私たちの研究室を訪れてください。

研究内容

食道から直腸まで:運動異常・免疫疾患・内視鏡治療に挑む
九州大学第三内科・消化器グループでは、「臨床の現場から生まれた問いに、研究で応える」を信条に、消化管疾患の病態解明と新たな診断・治療法の確立を目指しています。私たちの研究は、臓器の機能異常から始まり、免疫学的疾患、内視鏡治療技術に至るまで、消化器内科学を包括的に捉えた多角的なアプローチを特徴としています。

新たな食道運動異常症 -食道拡張能障害の診断法の確立-

これまで我々は高解像度食道内圧検査(HRM)とそれに基づくシカゴ分類により従来の内視鏡検査や食道造影検査では診断の難しかった食道運動異常症の診断に注力してきました。しかしながらHRMでも診断に至らないつかえ症状に対して、診断に難渋することもしばしば経験されました。
そのような中で近年、これまで食道運動の評価対象であった食道の収縮だけでなく、収縮と拡張の協調運動の重要性が提唱され、当科留学先として連携していたUniversity of California San Diegoにおいてその評価手法であるDistention contraction plot (DCP)が開発されました(Mittal R.K, Muta K et al. Gastroenterology 2021)。当科では国内で先駆けてDCPの導入を行い、食道拡張能の観点からつかえ症状の病態解明に取り組んでいます。また、我々は当科が開発した固形物を用いた造影検査である「おにぎり食道造影検査」が食道拡張能の評価に有用であることを見出しました。このように最新の診断技術を取り入れるとともに独自の検査手技の開発も行い、食道運動異常症の病態解明を目指しています。

排便運動に関する研究

慢性便秘症の亜型である機能性便排出障害は約4分の1を占めるとされています。この病態には骨盤底筋群の収縮弛緩が十分に得られない排便協調運動障害が重要とされていますが、その機序については解明されていない点が多く存在しました。我々はマウスを用いて逆行性トレーサーである仮性狂犬病ウイルス(PRV)と光遺伝学的手法や化学伝学的手法を駆使して、脳排便中枢を起点として直腸肛門部の平滑筋収縮を引き起こし排便が引き起こされる機序の解明に取り組んでいます。

炎症性腸疾患に関する研究

私たち九州大学病態制御内科学講座(第三内科)・消化器グループでは、「消化器疾患に苦しむ患者さんの未来を切り拓く」をモットーに、基礎から臨床にわたる多角的な研究を行っています。炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)に関しては、免疫学的機序の解明、診断や治療予測因子の探索、腸内環境や粘膜バリア機能の研究など、多岐にわたるアプローチを進めています。

1. 免疫応答の解明と治療の個別化

炎症性腸疾患の発症には、Th1・Th2・Th17細胞やTreg細胞のバランスが関与しています。私たちはこれらの免疫細胞に注目し、IL-1βやIL-23、OSMなどのサイトカインが病態に与える影響を明らかにしてきました。IL-1βやOSM、IL-23の発現は、治療反応性と相関することから、ステロイドの反応性、抗TNFα抗体製剤や抗IL-23抗体製剤の効果予測に応用できるため、将来的な「テーラーメード医療」の実現に貢献していくと考えています。

2. 腸内環境・粘膜バリアの研究

「潰瘍性大腸炎はなぜ直腸から炎症が連続性に波及していくのか?」という疑問に対し、腸内細菌叢や粘膜バリア機能の観点から研究を進めています。最近の成果では、直腸と結腸の腸内細菌叢に大きな差がないことが示唆され、直腸環境の特殊性に基づく再燃機序の解明に取り組んでいます。

3. 臨床データ解析とAI活用

九州大学工学部との連携により、病院情報システム(HIS)データをAIで解析し、潰瘍性大腸炎発症の環境因子や治療予測因子を抽出する新たな取り組みも始まっています。これにより、より精緻な疾患理解と、実臨床へのフィードバックが可能になると考えています。

4. 次世代研究への展開

近年ではオルガノイド(患者由来のミニ腸モデル)を用いたトランスレーショナル研究にも着手しており、病態解明に向けた基盤づくりを進めています。基礎から臨床へ、そして臨床から再び基礎へと知見を循環させる「ベンチからベッドサイドへ」の流れを意識しています。

制御性細胞(Treg)による免疫抑制の機序の解明

生体内で起こるあらゆる現象を理解する上で、炎症反応・免疫応答の理解は不可欠です。消化器研究室では、炎症・免疫応答の「行き過ぎ」を抑えるうえで中心的な役割を果たす制御性細胞(陽性)に焦点を当て、この細胞がどのように免疫応答を抑制しているのか、その基礎的動作原理を明らかにする為の研究に取り組んでいます。分子生物学的な手法とマウスモデルを用いた検討を軸に基礎的研究を展開しています。対象は消化管に限らず、全身です。全身における免疫応答の制御を理解し、各論としての消化管炎症の理解に繋げたいと考えています。

内視鏡関連の研究

内視鏡は消化管疾患の診療において不可欠な医療機器であり、その技術やテクノロジーの進歩は、診断および治療の質の向上に直結しています。当科では、より低侵襲で質の高い医療を実現するため、福岡県・九州管内にとどまらず、全国の医療機関と連携し、疫学調査や新たな診断・治療法の開発に取り組んでいます。
また、胃上皮性腫瘍、胃粘膜下腫瘍の診断技術、人工知能(AI)を活用した診断支援や安全で効率的な切除法・創部の閉鎖法、また逆流性食道炎など消化管機能を見る新しい内視鏡モードの開発など新規分野の研究にも力を入れており、これまでに国内外の診療ガイドラインに採用されるような研究成果を数多く報告しています。

新しい内視鏡モードの開発

効率的な内視鏡治療の追求

胃粘膜下腫瘍に関する研究

診療内容

食道運動異常症の診断と治療

食道には嚥下した食物を胃へ送りこむ働き(蠕動)と胃食道逆流を防ぐ逆流防止機構(下部食道括約筋)があります。食べ物の胃内へのスムーズな送達には両者の均整のとれた協調運動が必要不可欠で、これらの機能障害を生じた状態が食道運動異常症です。食道運動異常症は高解像度食道内圧検査で確定診断がなされ、当院は2012年の検査導入から、1500件以上の検査数を重ねた国内屈指の施設です。
検査のみならず治療にも注力し、食道運動異常症に対する内視鏡的食道筋層切開術(POEM)をその開発施設である昭和大学江東豊洲病院へと国内留学し、十分な研鑽を積んだ上で2017年から当院へ導入しています。POEMは全身麻酔下で、通常の内視鏡治療では温存すべき筋層を切開する特殊な内視鏡治療ですが、低侵襲であることに加え筋層切開範囲を調整できるメリットがあり、食道アカラシアだけではなく、ジャックハンマー食道や遠位食道痙攣などにも効果的です。一方で当科ではアカラシアの亜型であるEGJOOに対するアコチアミドの有効性を報告していますが(Muta K, Ihara E et al. Digestion 2016.)、同薬をはじめとする薬物療法で十分な症状改善に至ればPOEMを回避することも可能です。当科では食道内圧検査に加えて内視鏡、食道造影検査などの各種モダリティの結果をもとに、薬物療法からPOEM治療まで、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供できるように努めています。

難治性胃食道逆流症の診断と治療

近年、酸分泌抑制薬の進歩により胃内の酸分泌を厳格にコントロールできるようになっていますが、それにもかかわらず胸焼けなどの症状が残存する難治性の胃食道逆流症(Gastro-esophageal reflux disease; GERD)が問題となっています。またその病態は酸逆流のみならず食道の過敏性が関与していることが明らかとなっており、当科では食道内pHインピーダンス検査による正確な診断のもと、治療方針を決定しています。
また、2022年4月に内視鏡的逆流防止粘膜切除術が保険収載され、この治療により胃食道逆流の原因となる胃噴門部のゆるみを人工的な潰瘍形成と治癒後の瘢痕収縮により修復することが可能となりました。実際に当科でも病態的適応を満たし、かつ生活指導・薬物療法などに抵抗性の症状がある方には内視鏡的逆流防止粘膜切除術の一つであるAnti-reflux mucosectomy(ARMS)を行い、自覚症状の改善に貢献しています。今後もGERD症状に悩んでいる方々の症状改善を目指して努力を続けて参ります。

便秘診療の診断と治療

慢性便秘症の亜型である機能性便排出障害は直腸肛門機能が関与する病型であり、代表例として直腸知覚低下と排便協調運動障害が知られています。実際に直腸感覚閾値の変化が直腸運動に関与して排便回数の減少や溢流性の便失禁に繋がったり、また、排便時のいきみと骨盤底筋群の弛緩という協調運動が障害されることにより快適な排便ができなくなったりすることが報告されています。
しかしながら、現時点では慢性機能性便秘症に対する診断や治療効果判定は多くの施設では主観的に行われているのが現状であり、慢性便秘症の病態機能評価に有用である各種機能検査は専門的な一部の医療機関においてしか行われていません。
当科では臨床研究も兼ねて直腸肛門内圧検査、バロスタット検査、排便造影検査を施行し、機能性便排出障害の原因の解明に取り組んでいます。
1. 肛門内圧検査

肛門内に直径約5mmの細い管(圧力センサー)を入れて、肛門に力を入れない時(安静時静止圧)や力一杯しめた時(随意収縮圧)などの肛門のしまる強さ(圧力)を測定して肛門括約筋機能を判定します。
2.バロスタット検査
直腸内に留置したバルーンとそのバルーン内の圧測定装置によって直腸の圧容量曲線を得て直腸の伸展性や知覚を評価する検査です。
具体的には、肛門縁から10cm口側の直腸内に留置したバルーンに徐々に空気を注入して行い、注入した空気量と直腸内圧を計測します。初めにごく軽度の便意を感じたときの注入量である便意発現最少量(first sensation)、しっかりと便意をもよおしたときの注入量である便意発現量(desire to defecate)、さらに注入を続け我慢できなくなったときの注入量である最大耐容量(maximum tolerable volume)をそれぞれ計測します。便意発現最少量および便意発現量は直腸知覚能と相関し、最大耐容量は便貯留能と相関するとされます。
3.排便造影検査
バリウムを含む擬似便の排泄をX線透視下に撮影することで、直腸・肛門の形態的・動的変化や残便量を評価します。
以上の検査を組み合わせることにより機能性便排出障害の原因を明らかにして各々の患者さんに沿った最適な治療法を提案しています。

炎症性腸疾患診療

九州大学病態制御内科学講座(第三内科)では、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)に対し、専門的かつ高度な医療を提供しています。IBDは、腹痛や下痢、血便などを繰り返す慢性疾患であり、若年層に多く、患者さんの生活の質にも大きな影響を及ぼします。
当科関連病院から治療に難渋する患者さんが紹介されており、これまでに多数の難治症例を診療してきた豊富な経験を有しています。5-ASA製剤不耐やステロイド依存・抵抗、さらには複数の生物学的製剤に反応しないケースに対しても、タクロリムスなど免疫抑制薬や、必要に応じて外科的治療を視野に入れた全身的な管理を行い、個々の病態に応じた最適な治療方針を立案し、治療効果の最大化と安全性の両立を目指しています。
潰瘍性大腸炎・クローン病だけでなく、腸管型ベーチェット病、IgA関連腸炎、MEFV関連腸炎、クロンカイト・カナダ症候群、好酸球性胃腸炎といったIBD類縁疾患にも対応しており、鑑別が困難な症例にも専門的な視点から診断・治療を行ない、患者さんにとって最良の医療を提供する体制を整えています。

消化管腫瘍の臨床について

消化管腫瘍は、早期に発見し治療を行うことで高い確率で根治が期待できる疾患です。当科では、消化管の各部位に発生する腫瘍、特に癌や神経内分泌腫瘍に対して、これまでに蓄積した知見を活かし、効率的かつ低侵襲な内視鏡治療を積極的に実施しています。
また、腫瘍の早期発見に向けては、患者さんの負担軽減を意識しながら、内視鏡室と密接に連携した体制を構築しています。
治療においては、安全性に十分配慮し、これまでの研究成果に基づく手技を基本としています。ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)による高根治性治療から、ポリープ切除、腫瘍による腸閉塞に対するステント留置術まで、幅広い内視鏡的治療を提供しています。

超音波内視鏡(EUS: Endoscopic Ultrasonography)による診療

超音波内視鏡検査

超音波内視鏡検査(EUS:Endoscopic Ultrasonography)は、内視鏡の先端に超音波装置がついた特別な内視鏡(EUS専用機)や胃カメラの鉗子口から細径のEUSプローブを使って、体内の臓器や病変を詳しく調べる検査です。
消化管(食道、胃、十二指腸、大腸など)領域では、消化管に発生した癌の深達度(表面からどこまで深く進んでいるか)、(リンパ節など)転移診断、治療効果判定、粘膜下腫瘍の診断などに用いられます。
胆膵(胆のう、胆管、膵臓)領域では消化管内から高周波の超音波を膵臓や胆道系に直接当てることで、高解像度の画像が得られます。通常の画像検査(CTやMRI)よりも病変を詳細に描出でき、膵癌や胆道癌などの腫瘍性病変の検出・質的診断・局所進展度評価、周囲臓器浸潤やリンパ節転移の評価に優れています。
診療実績

EUSガイド下組織採取 (EUS-TA: EUS-guided Tissue Acquisition)

EUS-TA(EUS-guided Tissue Acquisition)は、超音波内視鏡(EUS)を用いて、消化管壁やその周囲臓器(主に膵臓、胆管、肝臓、縦隔、腹膜後リンパ節など)に存在する病変に対してリアルタイムで針を穿刺し、細胞診・組織診断を行う低侵襲かつ高い診断性能をもつ検査手技です。特に膵腫瘍では診断のゴールドスタンダードとなっています。

教育

学生教育

九州大学医学部 第3学年の「消化管・腹膜」の講義において、「消化管学概説(4)」「胃・十二指腸潰瘍」「胃・十二指腸疾患の機能異常、損傷と炎症」を担当、第4学年で「内科症候学-吐血、下血、便秘、下痢」の講義しています。また、医学部第4学年の診察手技試験(OSCE)の腹部の試験官を、医学部第4、5学年の臨床実習において、学生の指導を担当しています。

卒業教育

後期レジデント及びsubspecialty研修として、消化器内科、消化器内視鏡、胃腸科専門医の取得を目指したトレーニングを行なっています。当研究室は、これまでに日本消化器病学会専門医(82名)/指導医(17名)、日本消化器内視鏡学会専門医(70名)/(41名)、日本消化管学会胃腸科専門医(22名)/指導医(22名)を輩出しています。また、キャリアを中断せざるをえなかった女性医師に対しては、大学病院または基幹病院の有する女性医師のための研修プログラムを利用して、専門医の取得できるようにトレーニングを行なっています。